ギターの時間、2010年10月21日号
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★アヴィ・アヴィタルのインタビューを紹介する。アヴィは、先頃大阪で行われた「大阪国際マンドリンフェスティバル」の主催者・井上さんが、なんとYOU TUBEで"発見"し、同フェスティバルでのステージ、そして名古屋、東京公演実現に至った。東京公演を終えると、よく日には上海公演へ。
 アヴィの公式ホームページには、プロフィール、発表しているCDの紹介とともに、自身のコンサート情報も掲載されている。ワールドツアーと呼ぶのにふさわし い日程が見える。近年マンドリンのソロというスタイルでコンサートツアーするアーティストは、なかなか見かけないと思う。それだけに今回のステージに期待 する。若きマンドリン・ヒーローのキャリア、音楽観とは? まずはアヴィはどのような決意でソロツアーを始めるに到ったのかきいてみよう。

――ソロコンサートをはじめようと思ったきっかけと、そのときの覚悟を教えて下さい。

A:子供の頃からマンドリンオーケストラで演奏していました。
 マンドリンを弾くことは好きでした。次第にコンクールに出たり、いくつかの賞を取るようになると、演奏のオファーを受けるようになりました。 何かのきっかけで、プロのミュージシャンになろうと決心したのではなく、 演奏する機会が増えていってプロになったという訳です。

――イスラエルではマンドリンはポピュラーな楽器なのですか?

A:そんなにポピュラーではありません。
40〜50年代頃はマンドリンオーケストラは大変流行りました。特に共同農場で盛んでしたが、その伝統もだんだん消え、いまでは4つのマンドリンオーケストラがあるのみです。
 日本の方が盛んだと感じますよ。

――では、なおのことドリスアンドモリーコンクールで優勝したときは反響が大きかったでしょうね?

A:はい、もちろんそうです。
 マンドリンオーケストラの伝統自体は60年代以降伝統は後退していましたが、
実はマンドリンに対する人々の興味は増えているんです。 特にコンサート・ホールでのマンドリンの演奏は新鮮なサウンドとして受け入れられています。弦楽との競演やピアノトリオ、オーケストラとの競演は人気がありますよ。

――今まで行った国の中で盛んだと感じた国は?

A:うーん、日本は盛んですよね。 日本に来てびっくりしました。話には聞いていましたが、こんなに盛んだと思わなかったので・・・
日本では学校でマンドリンオーケストラをくんでるケースが多いですね。
 音楽だけではなく、人と協力することや協調性を学んだり、友情を育んだり、 教育全般に非常に役立っていると思います。イスラエルの学校でもマンドリンオーケストラの効用を認識してくれるといいなあと思います。

――その他の国はどうでしょうか?

A:イタリア、ドイツ、アメリカなど、盛んな国はあります。
ただ、バイオリンやピアノなどに比べると、マンドリンは世界的なスタンダードが確立していません。
マンドリン音楽と言っても、イタリアとドイツでは結構違いがありますし、
アメリカではご存知のようにブルーグラスの楽器としてポピュラーですね。
それからドイツやイタリアでもマンドリン人口が非常に多いという訳ではないのです。

――マンドリン以外に演奏できる楽器を教えてください。

A:高校時代はいろいろ多感な時期で、ドラムやギターに夢中になりましたね。
ビートルズやディープパープルの曲が好きで、バンド演奏をしたり。
そのあとまた、クラシックに戻ったときに、別な音楽をやっていたことで、
別の視点を持ってクラシック音楽に向かうことができました。
それはとても良い経験だったと思っています。

――マンドリンは高音よりの楽器で、それが良くも悪くも特徴だと思います。
良音域が狭いと感じることはありませんか?
A:まず、ソロコンサートのプログラムではバッハの3つのソナタとパルティータをとても大事に考えています。
現代曲とバッハを3曲交互に演奏します。バッハ、現代曲、バッハ、現代曲。。。
すると3曲目に聴くバッハの印象が変わってきます。
マンドリン音楽を多面的に演奏していけば、ソロコンサートのプログラムとして考えると、特に音域が狭い問題はクリアできると思っています。

――なるほど。ではマンドリンの良い点、悪い点を考えるとどうでしょう?

A:マンドリンの悪い点としては、レパートリーが少ないことです。
バイオリンやピアノにくらべると偉大な作曲家がたくさん曲を書いてきたという歴史がありません。
しかし、逆にそこが利点でもあるのです。
仮に私がバイオリンをやっていたとすると、メニューインやらパールマンやら偉大な功績や伝統を背負っていかねばなりません。
自分の道は伝統によって出来上がってしまう。
マンドリンはアーティストとして創造力を発揮できる余地が多くあります。 ほぼ白紙の状態からアーティストとして常に自分を見直していくことができる。
たいへん良い楽器です。

――バッハのソナタはオリジナルキーですか?

A:マンドリンとバイオリンは調弦が同じなので、ソナタ、パルティータはオリジナルキーです。
3週間前にコンチェルトをCD収録したのですが、ハープシコードのコンチェルトでしたのでFマイナーからGマイナーに移調して演奏しました。

――ほかにも編曲した曲があると思うのですが、キーの問題はどうしていますか?

A:それぞれのキーにはそれ自体に特徴やキャラクターがあるので、基本的にはなるべく原曲のキーは変えずに編曲するようにしています。

――アレンジは自分でやってるんですよね?パソコンのソフトは何ですか?

A:はい。ソフトはフィナーレをつかっています。

――自分で作曲した曲もたくさんありますか?

A:いいえ。1曲だけです。今夜演奏する曲が唯一の作品です。

――「Kedma」ですね。どういう意味ですか?

A:東に向かって進むという意味です。
民族が西へ移動した歴史があります。ですからヘブライ語で「東に行く」というのは、「原点に帰る」という意味があります。
kdmの語幹からは派生した言葉は多くあります。
前進する、過去に、古代、未来。。。過去も未来も意味する矛盾のある言葉です。両方向を向いている。イスラエルという国のおかれた状況を象徴している。私にとっても、とても意味深いことばです。
日本にしてももしかしたら同じではないでしょうか?

――いまドイツに住んでいる理由を教えてください。

A:ドイツには住むようになってから1年半くらいです。
それ以前はイタリアに8年間住んでいました。
イタリアは伝統があって、とても美しい町です。一方ベルリンはコスモポリタンな雰囲気があります。ヨーロッパ文化の中心で新しい芸術がどんどん生まれているところです。
新しいムーブメントの一角に身を置くこと、それを重要に考えています。
私は1年の半分かそれ以上ツアーをしています。ベルリンに帰ってくると非常に新鮮に感じることが多いです。そこがまたおもしろい。

――イタリアの20〜30年あたりの作曲家にも関心はありますか?
例えばカラーチェはどうですか?
A:カラーチェはマンドリンの歴史において重要だと思っていますし、曲もたくさん演奏します。
しかし、今回のプログラムにはあわなかったので入れていません。

――日本ではマンドリンの教本として、オデルやムニエルを使うことが多いですが、あなたはどうでしたか?

A:私は特殊な形でマンドリンを習得しました。
兵役の後にエルサレム音楽院に入りましたが、そこにはマンドリンの教授がいなかったので、バイオリンの教授につきました。
マンドリンのテクニックに関することはほぼ独学です。
音楽院を卒業した後に、イタリアに留学して、ウーゴ・オルランディ先生のもとで、伝統的なテクニックや音楽について学びました。
そのときにはムニエルを使いました。

--オルランディ先生に習ったことで一番印象深いことは何ですか?

A:最大のことは考えることを学んだということです。
オルランディ先生はとても知的で好奇心が旺盛な人です。
曲を演奏するにしても、曲がどうしてこうなっているのか、研究追求し考えろ、やる意味、理由を意識して頭を使うべきだと言いました。
常に好奇心を持つことの大切さを教えてくれました。
それはマンドリン奏者としてだけでなく、人生においても大きな意味を持っています。

--日本では優れた先生も多くいますが、独学に近い形で学生時代からマンドリンを演奏している人が大勢います。何かアドバイスをいただけませんか?

A:つねに自分の声に耳を傾けること。
マンドリンに自分の音を見いだすことに心がけてください。
どんな弦やピックを使うかも大切だけど、音楽とは人の心を豊かにするものです。
それを提供することを常に念頭に置いて演奏することが大事だと思います。

--アマチュアプレーヤーは演奏する時につい力が入りすぎてしまいます。
脱力方法やリラックス方法を教えてください。

A:私も力が入ることに問題を抱えていました。
そもそも楽器を演奏するというのは体には不自然なことです。
力が入りすぎるのは良くないと言っても、緊張感のある曲は緊張感を持って演奏します。
何でもかんでも脱力が必要なのではなく、大切なのは、どういう状態にあるのか、
自分の体の状況をつねに意識することです。
そのために、私にはアレキサンダーテクニックが役立っています。
人によってはそれがヨガかもしれないし。。。なんでもいいのです。
自分に合った方法があると思います。

--コンサートやツアーがうまくいくには何が必要ですか?
いろいろあると思います。演奏はもちろんですが、語学、パフォーマンス、マネージメント、ルックス。。。そう、あなたは笑顔がとても素敵です。

A:(笑)ありがとうございます。
今出たことはどれも必要だと思いますが、アーティストとして大事なのは、アーティストの役割をきちんと理解することです。
私自身エンターテインメントもポップスも好きですが、エンターテインメントとして楽しませることだけでなく、プラスして精神的に豊かなものを体験していただくこと、
それが大事だと考えています。
ルックルについては、家にいるときはジムやプールに行っていますが、ツアーに出てしまうと難しい。
加えて食べ物が珍しくてついたくさん食べてしまいます。
なんとかスタイルをキープしていけたら良いのですが。

--ありがとうございました。今夜のコンサートを楽しみにしています。


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第21回演奏会プログラム

会場:紀尾井ホール
指揮:小出雄聖
マンドリン独奏:佐藤洋志
曲目
o クロード・ドビュッシー(笹崎譲編曲)/歌劇「ペレアスとメリザンド」より抜粋
o モーリス・ラヴェル(笹崎譲編曲)/演奏会用狂詩曲「ツィガーヌ」
+ (独奏マンドリン:佐藤洋志)
o ジャン・シベリウス(笹崎譲編曲)/交響曲第6番