ギターの時間 Guitar no jikan/2011 1 FEB

岩永善信ギターリサイタルYoshinobu Iwanaga Guitar Recital

(撮影:kaerucamera)
 昨2010年11月、岩永善信さんの東京リサイタルが白寿ホールで行われた。ファンには恒例となっている秋の東京公演、今回の白寿ホールはギターコンサートには最適な空間として演奏するギタリスト、また客席のファンにも定評のあるホールだ。当日は満員の盛況。開演前から長蛇の列がホールを囲んだ。
 プログラムは既報の通り、古典から現代までを網羅した、一見とりとめなさそうな作品が並んだのだが、音楽は“岩永流”に一貫している。岩永さんが消化してきた「ギタークロニクル=音楽史」といえば良いのではないだろうか。
 しかも有名な曲も半分並ぶがそのほとんどは氏の手による編曲作品だ。
 素にしているのは常にオリジナル楽譜。つまりJ.S.バッハはオルガン譜から、アルベニスはピアノ譜から、と言った具合。それは単に自身が使うギターの弦に合わせることに留まらない。より深い音楽の創造が聴ける。

「アダージョ」「プレリュード&ガヴォットⅠ・Ⅱ」(M.M.ポンセ) 「無伴奏ヴァイオリンソナタ 第1番 BWV1001」(J.S.バッハ)へ続く前半は、クラシックギターの王道音楽たち、という趣。同時に10弦ギターによる挨拶と自己紹介、とも聴ける。そして通奏低音的な音が、バッハ作品にどれだけ重要か、改めて気づかせる。6弦のギターでは、バッハ「・・・のようなもの」にしかならないのではないか?と思わせる説得力がある。音楽のパースペクティブが全然違うものに見える。
withguitar guitar
(▲岩永さんと愛用のロマニリョス10弦)

 後半、難曲「ロマンスとカプリス第24番」(N.パガニーニ)からスタートしR.S.ブリンドルの「黄金のポリフェーモ」へ。このくだり、前者は超絶技巧が聴かせどころ、見せ所で、ギター、とりわけ10弦ギターのテクニカルな可能性を聴かせ、魅せる。そして後者は、音楽的に現代が要求する音列の再現にいかにギターが最適か。その説得力に満ちた演奏といえばよいだろうか。ピアノのアタックよりも鮮烈に響く音の立ち上がり、そして消え行く余韻。演奏は難しい。でもプログレッシブな音楽にギターや、おそらくマンドリンもだが、クラシック音楽の文脈から欠落しているこれらの楽器が果たす役割が、まだまだ残されていることを実感させる。

 今年既に岩永さんのコンサートスケジュールはいっぱいだ。あなたの街の近くでコンサートがあれば、ぜひ、岩永善信を体験してみてほしい。小さな体のこの人の大きな大きな音楽を。

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