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  • 岩永善信ギターリサイタル 2018

    岩永善信ギターリサイタル 2018

     今年は平成最後の〜というフレーズがよく使われた。たしかにそうだ。その言葉を聞くと、「時」というのはたんたんと過ぎていくこと、今この瞬間も過ぎ去っていくのだということをぼんやり、あるいは激しく感じ、場合によっては焦ったりもする。一方、ひとの想い、感覚、記憶は一つの場所に結構長く居座ったりしてこれが厄介なこともあれば、それが、こころを癒すこともある。印象的な演奏会、心を揺さぶられた瞬間を持つコンサート〜音楽の記憶というのは、いつまでも心に残り、その記憶の中の感動は時を経て増幅することもある。そして遠い過去のできごとも昨日の体験も記憶のフォルダの中では隣り合わせだ。時間が作り出すマジックの一つだろう。時間を使うことで旨味が増す熟成食品やワインなどに通じる話かもしれない。

     岩永善信のギターコンサートの記憶は自分のフォルダの中では単純にソートできない。以前のプログラムを眺めてみると、各プログラムのなかの1曲1曲が鳴り出す。プログラムは、基本的に「バロックと近世のロマン派。現代作曲家の作品等」から構成されることが多く今回もこの構成だ。“言ってみれば「ギターっぽくない志向」”と、以前自分の文章の中でも書いた。しかし、バッハもヘンデルも、不思議と管弦楽そのものではなく岩永善信の奏でる10弦ギターのサウンドで蘇る。彼の音はそれほど「音楽的」だと思う。ふだんバッハはオルガンと管弦楽しか聴かない偏ったバロックファンの自分が、である。
     これは10弦ギターならではの特質がたぶんに関係もしているとは思う。端的にバロックの通奏低音的な響きは、10弦ギターによって低いほうの倍音を伴うことで再現される。これがいかに大切か。6弦ギターのバッハのドライな演奏で関心できる例がとても少なく感じる一方、岩永さんのステージでは心地よく響くのだ。いつも。

     今回の第1曲目はパッヘルベルの「シャコンヌ」。ポピュラー・ソングでは王道のコード進行が背景にある作品。つまりはその先祖と言える。グリーンスリーブスのAメロもこれですね。グランドファンクレイルロードの「ハートブレーカー」とか。メロディーは対位法で幾何学的に動く印象だけれど展開が親しみやすい。加えて低音は6弦の枠を超えて下へ伸び躍動しながら音楽を支える。ほとばしる感情が流れ出ているような作品で幕を開けた。
     カルリ、ジュリアーニらともほぼ同時代に生きたグラニアーニは颯爽とした印象の「序曲Op.15」。屈託のないファンファーレのような作品。ナポレオンの時代を映しているようだ。
     ギターも弾いたシューベルトはピアノ作品の「ワルツ」から6曲。セゴビア編曲〈36の独創的舞曲〉からの3曲に岩永さん自身の編曲による〈高貴なワルツ〉から3曲を加えた構成。このワルツ集が短い作品からなるため、あっという間のワルツの時間だったが、これに続いてすぐにヘンデル「組曲第11番」。チェンバロによる作品が10弦ギターで文字通り華麗にかつ豊かに響いた。

     休憩を挟みグルック歌劇『オルフェオとエウリディーチェ』から「オルフェオの嘆き」と「精霊の踊り」。クリストフ・ヴィリバルト・グルックはオペラ作曲家として、オペラ改革者として歴史に残る。ワグナーの先駆けとみられている。作品は多作でもあったがよく演奏されるのがこの歌劇からの作品。悲恋ストーリーの中の典雅さを豊かに聴かせた。
     サン=サーンス『動物の謝肉祭』からライオンの行進曲、亀、象、雌鳥と雄鳥、白鳥の5曲。ライオンの低音弦による速いパッセージが、そばだてていた耳に飛び込んでくる。指さばきに目を見張る。こうした作品をギターで聴く体験こそ岩永レパートリーならではの醍醐味であり魅力だ。編曲はもちろん岩永さん自身による。
    最後に藤井敬吾「羽衣伝説」。沖縄の旋律とリズムを意識して書かれた作品。天空から降りてきた声のような印象的なハーモニクスから始まる壮大な作品である。いくつかのモチーフが展開していく中でギターの技巧が散りばめられており、聞きどころが随所にある。総じて幽玄なイメージを残し、それは山水画の世界が単色ながら深い奥行きと時間を超えた風景を見せる、そんな体験に似ていた。

     アンコールはベートーヴェンの「メヌエット」、アンデス「ダンス」そしてビショップ「ホームスイートホーム」。日本では「埴生の宿」として定着している。が、随分印象が異なる作品として聴いた。岩永さんいわく「日本調だと「湿り気」があるけれど、これを少し爽やかにしたかった」とのこと。しかし「ホームスイートホーム」と「埴生の宿」の間にはわかりやすい差があることにも気がついた。Key=Dで「はー|にゅーうのーや|どーはー・・」の最初の「はー」をレの1音(♩)で平坦に歌うが、ホームスイートホームが「Mid |pleasures and pa-|-laces・・」のド頭「Mid」(ミィド)は、レミ(♫)の2音で鳴らす違い。これもじつに印象を左右するのだと思う。
     アレンジの基本はメロディーをさりげないアルペジオがフォロウしていく。最後の数小節をリタルダンドして平成のステージを終えた。

     鮮烈な記憶は、色褪せることなく輝きを増していく。岩永善信のギター・コンサート体験は、鮮やかな記憶として刷り込まれ、今また年号を超えていく。
    (岩永善信ギターリサイタル 2018.11.24 白寿ホール Photo by KaeruCamera)

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    注目!佐古季暢子・佐藤紀雄コンサート7/15

     佐古季暢子(さこきょうこ・マンドリン)と佐藤紀雄(ギター)による”新響地[しんきょうち]”と題したコンサートが行われる。
    佐古さんは広島・エリザベト音楽大学マンドリン専攻の第1期生で、その後ドイツ・ケルン音大ヴッパータール校で学び帰国後は現代作品・世界の新曲演奏に積極的に取り組んでいる。その活動に共感したかつての師からの提案で実現した企画だ。
    現役ギタリストであり現代作曲家でもある佐藤紀雄氏は、アンサンブル・ノマドの活動でも知られる。ノマドはサントリー音楽財団「第2回佐治敬三賞」、東京オペラシティ主催の『武満徹作曲賞』でも絶大な評価を得ており、演奏の場はワールドワイド。
    近年、マンドリン演奏の世界でも国内の若手作曲家による意欲的な”初演”演奏会がたびたび行われ、大きな成果を残している。そのすべてを体感しているわけではないが、どれもがワクワクする新しい音楽の胎動を感じさせる。感性が開かれている二人が声を合わせる「新境地」は、その中にあってまた新しい波紋を投じるに違いない。

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